2013/01/04

マイルス・デイビス自叙伝


和歌山県の白浜町にとても美味しいサラダとピザ、それに美味しいお酒を出しているお店があって、その店のトイレに額に入れられたマイルスの写真が飾ってある。大型の生写真で、1969年のニューポート・ジャズ・フェスティバルに出演した際のものらしい。激動の時代だ。アメリカの社会も音楽シーンも。この時代にマイルスは物凄いアルバムを幾つも作った。「イン・ア・サイレント・ウェイ」「ビッチェズ・ブリュー」などなど。大きな眼鏡をかけ、マイルスは客席を真っ直ぐ見つめている。その誇りと自信に溢れた顔を見ていると胸が熱くなり、背筋が伸びてくる。この自叙伝を読んだ時と同じ感覚だ。

マイルス自らがその波瀾万丈の人生を語り尽くした本で、ジャズに夢中になっていた頃に読んだ。以来何度も読み返している。チャーリー・パーカーやディジー・ガレスピーに対する憧れ、コルトレーンやトニー・ウィリアムス、ウェイン・ショーターをはじめとするバンド仲間たちとの出会い、モンクやミンガスとの喧嘩、ジャズの枠を超えたジミ・ヘンドリックス、プリンスとの邂逅。そして多くのミュージシャンとの死別。その裏側で語られる人種差別やクスリ漬けの日々、多くの女性との恋といった数々のドラマ。マイルスが送った人生の全てが記されている。中山康樹さんの訳も絶妙でぐいぐい引きこまれ、マイスルのもつエネルギーが指先から伝わる名著だ。

マイルスは過去を振り返らず(ただし思い出は大切にした)、その音楽は進化を続け(ビル・エヴァンスという白人のピアニストに出会った時、黒だろうが白だろうが黄だろうが赤だろうが素晴らしい音楽を奏でるならどんな人間でも構わない、と断言している。)、自分を信じて突き進んだ。何度もダメになりそうな度に自分を励まし、素晴らしい音楽を純粋に追求した。マイルスが残した音楽は人類が残した唯一無二の遺産と言ってもよいものだと思う。

新年早々にその写真を見て、身が引き締まる思いだ。
お前は何をやりたいんだ?そのために努力をしているのか?そう問われている気がした。


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