2012/12/25
コーマック・マッカーシー / ザ・ロード
冬は冷たく、暗い、孤独の季節だ。「冬の本」と言えば、世紀末の世界をただ南へと漂流するこの父と息子の物語を思い浮かべる。読後、冷たい風の中を家路に着いたように喉がカラカラになったのを覚えている。
作者のコーマック・マッカーシーはこの作品でピュリッツァー賞を受賞した。アメリカを代表する現代の文豪だ。日本でもヒットした「ノー・カントリー」(血と暴力の国)の原作者と言えば知っているかも知れない。
物語の舞台は滅亡の一途を辿っている。何かが原因で(恐らく核戦争)世界は分厚い雲に覆われ、太陽は姿を消し、気温は下がり続け、灰が降り積もる。動物も植物もほとんど見られない。生き残った人々は食べ物を巡って殺戮、略奪の限りを尽くし、飢えに耐えかね人肉食にまで堕ちる。
そんな世界を父と息子がただひたすら一つの道をショッピングカートを押して進んでいく。銃を手にして。
父は彼、息子は少年、として三人称で描かれる。物語の始まりは優しさと温もりで溢れている。
「森の夜の闇と寒さの中で目を醒ますと彼はいつも手を伸ばしてかたわらで眠る子供に触れた。~彼の手はかけがえないのない息に合わせて柔らかく上下した」
心理描写は全くなく、彼と少年の会話だけが物語に深みを与えている、会話に鍵括弧は無い。
それなに、パパ?
網笠茸。網笠茸だ。
あみがさたけって?
キノコだよ。
食べられるの?
ああ。齧ってごらん。
おいしい?
いいから齧ってごらん。
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もう死ぬと思っているだろう。
わかんない。
死にはしないよ。
わかった。
でも信じてないな。
わかんない。
なぜもう死ぬと思うんだ?
わかんない。
そのわかんないというのはよせ。
わかった。
なぜもう死ぬと思うんだ。
食べ物がないから。
今に見つけるよ。
人間は食べ物なしでどれくらい生きられると思う?
わかんない。
わからなくてもどれくらいだと思う?
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こういった世界にあって、二人だけが人間らしさを失っていない。
水だけを口にしながらも何故か少年だけは生命力に満ち溢れている。
それは彼にとっても、僕にとっても、全ての読者にとって少年が希望に見えるからだと思う。
日本もアメリカも、大きな転換期を迎えているけれど、希望に目を向ければ進む道は分り易いと思うのだが、どうだろう。
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