2012/08/22

トルーマン・カポーティ / 夜の樹


村上春樹の「サラダ好きのライオン」を読んでいると久々にこの文句に出会ったので、カポーティを読み直した。僕はカポーティが大好きなんです(ただ、ティファニーで朝食を、だけは良く分からない。その内分かる日が来るんだろうか)。その文句とはこちらです。
「何も考えまい。ただ風のことだけを考えていよう。」 有名ですね。恐らく。村上春樹氏もこの文句からデビュー作「風の歌を聴け」というタイトルを頂いたと述べられている。

 この文句は「最後の扉を閉めて」という短編の最後のセンテンスになっている。改めて読んでみると、本当に孤独な小説だ。もう孤独な人を究極に追い詰めている。世界中の人々に愛されるように文章はため息が出るほど本当に美しいけれど、こんなにたくさんの孤独を書く作家は恐らく他にいない。その孤独には夜のように深い闇の孤独があり、氷のような冷たい孤独がある。この人の物語を読んでいると実際に孤独という物体に触れているような気がしてくる。

 20代の時に出会って良かった。10代で読んでいたら窒息していたかも知れないと今更思ってしまった。

 でも今は、孤独な話だなあと思いながらも、その文章の美しさに心を奪われてしまう。何故だろう。家族を持って孤独に興味を失ったからかも知れない。今、孤独を書き切る作家はあまりいないのではないでしょうか。どうなんだろう。愛や孤独は語りつくされた気がする。そんな事を思いながら、書きながら、孤独ってなんだ、とまた思考がぐらぐらと揺れている。

 この「夜の樹」という短編集はタイトル作品はもちろんの事、「ミリアム」「誕生日の子供たち」など有名な素晴らしい作品が収められていてお勧めです。眠る前に読むと寂しい気持ちになれます。

2012/08/21

田中康夫 / 神戸震災日記


 古本屋さんで¥105-で購入した。たまたま目に付いてそのままパラパラとめくってからそのままレジへ持っていった。以前から探していたわけではない。なんとなくその時出会ったから買った。古本屋さんにはこういうふとした出会いみたいな楽しみがある。

 目に付いたのは一応理由がある。僕は神戸出身でこの震災により実家は半壊した。神戸の垂水区という所で淡路は目と鼻の先だ。ただ、僕はその地震を体験していない。僕はその時栃木県にいた。15歳の多感な頃で高校受験を控えていた。その日の朝は良く覚えている。いつも通り目が覚めて朝ごはんを食べようと階段を下りていくと父親と母親がTVに釘付けになり、「電話が繋がらへん」と右往左往していた。

 その1月17日の4日後に著者は大阪に降り立ちその足で50ccのバイクを買い求め被災地へ入る。著者は何度も自分に問いかける、「自分一人に何が出来るのか?いや、出来ることを出来る範囲でやっていこう」と。「自分には何が出来るのかという問いかけ」が必要なのだと著者は言う。
TVでは伝わらない現場での出来事が生々しく現実の空気を纏って日記に綴られていく。1.17の出来事を忘れないためにもこの本は読み継がれて欲しい。

 また、別の意味でもこれは忘れてはならないと思う所があった。当時虚しいお題目が起こった。「今度は震度7でも耐えられる新幹線や高速道路を作れ」
このお題目に対し、著者は「自然を冒涜しているし、人間をも冒涜している」と痛烈に批判している。この出来事と全く同じ出来事を今、福井県で目の当たりにしている。

 1.17からその後も世界中で様々な出来事が起こりながらも、時代は良くなっていると信じている自分の思いと国は変わらないのかという落胆の思いが入り混じった。